創業60年の東京堂模型店で。「模型は興味や憧れを形にするもの」
はい、茨木ジャーナルです。
「情報はココ」へ東京堂模型店についてコメント投稿をいただいていたので、お気付きの方もいらっしゃるかと思います。
「大手町に店を構え61年目。店主高齢のため、この度閉店を決意致しました」とメッセージが届いたので、先日お店を訪ねました。
「長い歴史を持つお店」と聞いたことのある「東京堂模型店」は、いつか訪ねてみたいと思っていたところです。
模型ってどんなもの?
東京堂模型店内の棚には商品が整頓され、ショーケースにいくつかの完成品が展示されていました。いただいたメッセージには「ただいま閉店セール開催中です。商品なくなり次第閉店となります」とあります。
子どものころ、簡単な模型を作った記憶はあるのですが、東京堂模型店に並ぶ模型はどれも、とても精密で驚きます。
「実在するものを縮尺したのが、模型。車や飛行機や船などいろいろあります。最近は空想(マンガなど)に出てくるものも金型を作って模型にしていますから、模型メーカーの技術はすばらしいものですよ」と店主・小林武夫さんが説明してくださいました。
空想(マンガなど)のものを模型にする技術がすばらしいとはどういうことでしょう?
「車の模型の場合、模型メーカーは自動車メーカーともやりとりをして、現物の縮尺を作っています」と小林さん。車体はもちろん、エンジン回りや内装の細かい部分まで正確に縮尺されています。
模型メーカーは、フェラーリの模型を作るために版権を買ったり、戦車や戦闘機の模型のために世界各国の博物館を訪問して採寸しているとか。実物に近いものを作るために、そこまで徹底しているのかと驚きます。
現実にはない空想のものを金型に起こして模型にすることが、大変なことも想像できますよね。
日本で模型を楽しむ人は減っているそうですが、日本の模型メーカーは今も成長を続けていて、現在は海外向けにも事業を展開しているそうです。
ショーケース越しに模型をいくつか見ていくと、どれも本当に細かくて、模型を作るのはどんな人に向いているんだろうという疑問が、わいてきました。
小林さんは「興味があれば、誰にでも作れる」と言いますが、根気のいる作業だろうなあと、想像できます。
ショーケースには、戦艦や戦闘飛行機や戦車の模型が並んでいますが「実際にあるものの縮尺を自分で作る」という部分に模型の魅力を感じる人が多いようです。
模型メーカーがそこまでして、車や飛行機や船の外側からは見えない隠れたところまで精密に作っていると聞くと、そばに展示してあった乗組員さんの模型も「制服も縮尺?」と興味がわいてきました。
「実物に近いもの、分かりやすく作りやすく説明してある模型が、優れた商品だと思います」とのこと。模型としての素晴らしさは、ただ「本物の縮尺です」というだけではないところにあるようです。
東京堂模型店は
東京堂模型店は1957年(昭和32年)に、オープン。当初は茨木高校の正門(現在の北側の門)前でスタートしました。
その頃は、模型を買うにはデパートなどへ行く必要があり、茨木の街にできた模型店は珍しく、便利さもあって遠くからもお客さんが足を運んでくれました。模型を作ることが広がっていると実感したと小林さんは振り返ります。
「昔は、学校教材として模型がありました。今はもっと高度なことに時間をかけるようになっているので、模型を作ることは個人の趣味になりましたね。家庭でも、塾や習い事を優先させますから」
模型の立ち位置も、時代とともに変化しているようです。
最近は、退職して自分の時間をゆっくり使えるようになった大人の来店が増え、子どもの姿が減っていると感じているそうです。
小林さんご自身もモノを作ることが好きだったのでしょうか。
「子どものころに住んでいた街で、アメリカ軍のジープを見たんです。『アメリカの車ってすごいな』『どうなってるんだろう』って、停まっているジープを巻き尺で測って、ブリキやなんかで作ってみたことがありました。あの時代の子どもたちは、興味や憧れを持ったものを、何もないところから作っていましたね」
「興味があれば、誰でも作れますよ」と最初におっしゃった小林さんの言葉は、子ども時代の経験から出るものかもしれません。
模型と子どもの今と昔
模型を作る子どもは少なくなったと感じても、小林さんはそれを否定的に言うことはありません。より複雑で高度なものが増え、子どもも大人も選択肢が豊富にある恵まれた時代だと言います。
「昔、お年玉というと子どもにとっては、自分で好きにお金を使えるという、ちょっと大きな出来事でしたよね」
東京堂模型店は、お年玉を手にやってくる子どもたちのために、ずっと昔から元日も店を営業していました。周囲に元日から店を開けているところはなく「兄ちゃん(小林さんのこと)、正月に店なんか開けても誰も来ないよ」と笑われたとか。
開けてみれば、多くの子どもが朝から来店し、店の前には空っぽになったポチ袋がたくさん落ちていたということもあったそうです。
「今は、たくさんの選択肢から、自分が本当に好きなものにお金を使う。子どもたちの持つお金の額も大きくなってるみたい」と小林さんは笑います。作るのではなく、すでに完成したものだって買える時代です。
学校で模型を作る機会があったことや、お年玉が自分で自由に買い物をできるハレの日だった時代。模型作りはそんな中で子どもたちに広がっていったようです。
模型を通して生まれる交流も
小林さんは「自分がわからないものは商品に出せないから」と、勉強することも大切だといいます。
戦車や戦闘機や戦艦などは、データはもちろん歴史や仕組みも頭に入れます。城の模型は、現地へ行き、誰が建てて住んだのかも調べました。
商品はできるだけ早く展示したいと、夢中で作っていたといいます。
お客さんからの相談にアドバイスをすることもありますが、塗装や最後の仕上げ部分は、人それぞれにこだわりがあり、同じ模型でも完成した様子は異なります。
完成した模型はコンテストに出展することも。関西模型協会の競技会へは、お客さんを誘ってみんなで出かけ、コンテストで表彰された作品も、東京堂模型店に今でも展示してあります。
飛行機の模型は、みんなで飛ばしてみたりするなど、模型は一人でコツコツと作りますが、完成後には作った人同士での交流もあるんですね。
「模型には、完成したときの達成感や感動があります。完成品を自分で眺めて、見るたびに感動を味わう人もいるでしょうし、コンテストや仲間からの評価に喜びを感じる人もいます。私自身もお客さんみんなでコンテストへ出かけたときのことは楽しい思い出。一緒に出かけた子どもや、その親御さんが喜んでいる様子を見るのも嬉しかった」
模型作りは「背景」に興味を持つこと
2018年2月か3月頃に、小林さんは東京模型店の店主から卒業されます。東京堂模型店も、模型を販売するという役割から引退します。
「閉店…という言葉になるんでしょうね。どう表現したらいいかなぁと思っているところです」と小林さん。
60年の東京堂模型店でのことを振り返って、今改めて思うのはどんなことでしょう。
「たくさんありますね、たくさん」と少し考えながら「お客さんに盛り上げてもらった、お客さんに育ててもらったなあと思います。お客さんがいたから続けてこられたし、近所の人にたくさん助けてもらいました」と言います。
特別な言葉ではないけれど、これが小林さんが今感じている、一番大きな気持ちのようです。
作る人の思いや背景がこめられている
お話をお聞きしている間、、小林さんは「昔はよかった」「昔の子どもはこうだった。最近は」などはおっしゃいませんでした。
ただ「模型は興味や憧れがあれば、作れます」と何度もおっしゃいました。
「車に興味を持たない人も増えてきたっていいますよね。レンタカーやシェアカーなら、自分で手入れをする必要もないし便利になりました」
模型作りは、ものへの興味や関心から夢中になるんだろうと小林さん。形や性能についても、なぜこんな形にしたのか、作られた時代はどんな様子だったのかなど、模型作りは、ものの背景を思うことにつながっているようです。
「20年ぐらい前。好きな車の模型を作っていたお客さんがいたんです。バイトで一生懸命お金を貯めてようやく、憧れの本物の車を買ったんですけど、ご家族の病気治療のために車を手放したんです。治ったらまた買えばいいからと。でも、結局完治することはなくって。あのときは、お客さんに泣かされたなぁ」
模型店で60年を過ごした小林さんには、一つ一つの模型に背景や思い出がこめられているのだろうなぁと感じました。
「模型は、興味や憧れを形に作るもの」という言葉に、小林さんが、子どものころに憧れた米軍のジープの寸法を測りに行ったときの様子が浮かびました。
東京堂模型店を覗いてみませんか?
東京堂模型店は、2018年も元日からオープンしています。(1/1は11:00オープン)
「子どものころ、模型を買いに行ったなぁ」とか「いつか行きたいと思ってた」という方、初詣のときにでも、ちらっとお顔を出してみてはいかがでしょうか。
「昔はコワい顔して模型を作ってたって言われたら困るなぁ」と笑う小林さん。ときどき街で声を掛けられることもあるそうで、そんな時が嬉しいそうです。
模型作りが好きな人同士の、楽しい時間が流れるといいなぁと思いました。
【東京堂模型店】
所在地: 茨木市大手町9-13 |
電話: 072-624-1902 |
営業時間 10:00~19:00 ※1/1のみ11時オープンです。 火曜休み |
駐車場はありません。 近隣のコインパーキングをご利用ください。 |
〒567-0883 大阪府茨木市大手町9−13
年末のお忙しい中、お時間をくださった小林さん、ありがとうございました。(メッセージをくださったほたるさん。素敵な機会をありがとうございました)