茨木の農家【チキチキファーム】伊東充志さんの話 2 -茨木で働く-
はい、いばジャルです。
前回紹介した、<茨木の農家【チキチキファーム】伊東充志さんの話>記事。
今回は、デザイン会社に勤めていた、伊東充志さんが
いよいよ農家への道を歩き始めた頃の話を伺いました。
頑張ってたら、誰かが見てる
2012年、農業を始めた年、初めて借りた畑は荒れ放題で
「ジャングルみたいやった」と伊東さん。
かなりの期間放置されていた荒れ地は、水はけも悪くドロドロ。
その上、その畑は段々畑で幅も狭く、作業の効率も良くありませんでした。
毎日、土木作業のようなことが続きました。
それでも、念願かなって手に入れた畑。
2012年2月に開墾して、春に種を撒き、
その年は、水菜、小松菜、ラディッシュなどの葉物の収穫ができました。
「なにが成功なのかはわからないけど、一応できました」と
笑顔で話す伊東さんですが、一年目の苦労は、土地を耕したり
野菜を作っていくことだけではありませんでした。
「野菜を置いてもらうところを探すことが、大変でした」。
茨木市見山地区の畑は、近くに「見山の郷」という施設もあり、
この地域で採れた野菜などを販売しています。
けれど、ここに野菜を置かせてもらうには、
見山地区に住んでいなくてはダメだったのです。
そこで伊東さんは、丹精込めて作った野菜を持って、営業に出ることに。
「この野菜、食べてみてください」
「食べて、美味しかったら(店に)置いて下さい」と
頼んで廻ったのでした。
能勢で修行していた頃の農業のバイトで知り合った、
あるスーパーへの卸売業者さんにも、もちろん営業に行きました。
「食べてみて、おいしかったら扱って下さい」と頼み、
野菜を認めてもらうことができました。
「でも、それも大変やった」と伊東さんは振り返ります。
池田市内のスーパーに置いてもらうには、
茨木市に住む伊東さんは、自分の作った野菜を
能勢や池田の農家さんの野菜と一緒に、
持っていなかなければならなかったのです。
「茨木を朝4時に出て、能勢や池田を回って野菜を集めて。
結局、畑に戻るのが午後3時。
もう、農業のことをする時間が少なくなってしまった」。
だからと言って、その販売先を失うということは、
作った野菜を売る場所が、まったくなくなってしまうということ。
悩みながらも、しばらくはそうやって、野菜の販売を続けました。
「このままでいいんだろうか」
悩んでいた時、相談に乗ってくれたのが、
見山の地区で今もお世話になっている農家さんでした。
話を聞いたその方は、総持寺にある「みしま館」という、
市内の農産物を販売しているJA施設に、
伊東さんの野菜も置けるように、働きかけてくれたのでした。
野菜の品質と一生懸命に取り組む伊東さんの姿に
「みしま館」も理解をしてくれて、
「農家」として認めてくれたのでした。
「農業をするのには、ルールのようなものがあって
確かに難しいこともある」という伊東さん。
それらを越えてきたものは、なんだったのでしょう。
伊東さんのお話からは
「それを見てもらって・・・」というフレーズがよく出てきます。
農業をやりたい!と夢中で色んなところへ出向く、
荒れ地を耕す、
一年を通して野菜を作っていく、
「食べてみて下さい!」と野菜を持って営業に回る。
やるべきことをとにかく一生懸命にやって、
「それを見てもらって」
その結果、信頼されて任されていき、
またその期待に応えていって、また任されていく・・・。
実際に手を動かしていく姿を見てもらって、
色んな道が広がってきたのですね。
ルールはある。
でも、ルールを作っているのも「人」。
人を動かすのは、人なんだなぁと、伊東さんの話を聞いていると
改めて、そんなことを感じます。
「農家」として野菜を作ること
お話を伺いに行った時は、まだ春と言っても肌寒い時期。
「今って露地は、野菜がない時期。
でも、ハウスを持っていたらそういうことをコントロールできる」。
その言葉からは、ハウスでも野菜を作ることができる環境に対しての、
使命感が伝わってきます。
「何を作ったらいいか、が少しずつわかってきて、でもやっぱり
一番は、お客さんが喜んでくれる野菜を作っていくということ」と伊東さん。
作りやすいから、美味しいから、珍しいから、というのでなく、
それらを総合的にみて、なおかつお客さんに喜んでもらえるものを
作っていきたいと考えています。
例えば、トマト。
「トマトを甘くおいしくするための方法は、ある。
でも、その方法を普通サイズのトマトに使うと、一個数百円になる。
例え、すごくおいしくてもお客さんが買ってくれるんだろうか、ってこと」と
言います。
同時に、
「有機栽培で作る意味はあるのか?」と自問することもあります。
それは「農家」として野菜を作る、ということを
真剣に考えているからなのです。
お客さんが喜んでくれること、有機栽培で野菜を作ること、
野菜がちゃんと評価を受けること・・・。
それらがマッチすることが、伊東さんのモチベーションになっています。
「有機栽培って、大変なんじゃないですか?」と聞くと伊東さんは、
「わかんないっす。
たまたま最初に教えてもらったのが、有機やったんで。
それしか知らないんで」と、さらっと言います。
有機栽培で野菜を作っている、ということは「たまたま」で
「農家」としての伊東さんの土台になっているのは、
「自分の手を動かして、美味しい野菜を作りたい」
ということに尽きるのかもしれませんね。
伊東さんのお話は、<茨木の農家【チキチキファーム】伊東充志さんの話3>に続きます。