川端作品への入り口は身近なところに-映画「葬式の名人」の樋口尚文監督と中江有里さん講演で

はい、茨木ジャーナルです。

6月26日(日)に、茨木市クリエイトセンターで開催された「川端康成生誕月記念」の講演&トークショーへ行ってきました。

第一部は、女優・作家の中江有里さんによる講演と朗読。
第二部は、映画評論家・映画「葬式の名人」監督の樋口尚文さんと中江有里さんのトークショー。

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「川端文学と出会い直す時」をテーマにしたお話は楽しくて、会場全体が温かい空気に包まれていました。

「出会い直す…とは?」と思っていましたが、話を聞きながら「あぁ、こういうことなのか」と、感じることがいくつかありました。
印象に残っていることを紹介します!

川端康成の視点に気付く-中江さんの話

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(写真は2021年4月)

講演会は、中江有里さんの講演と朗読からスタート。

もともと読書が好きだったという中江さん。

大学の卒論で作家・北條民雄について調べていたときに、川端康成と北條民雄との関わりを深く知ったそう。
茨木市の川端康成文学館へも足を運んだとおっしゃっていました。

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「北條民雄の作品は、川端康成がいなければ世に出ることはなかった」「それほど、川端康成は大きな存在」と中江さん。

ノーベル文学賞受賞など、目に見える功績だけでなく「まだ日の当たっていない優れたものをすくいあげていた」という川端康成の一面を紹介してくれました。

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(写真は2022年4月)

中江さんの朗読のひとつは、小説「古都」冒頭シーンから。

もみじの古株にすみれの花が2つ咲いたのを主人公が見つける場面です。

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(写真は2021年4月)

「主人公は、大きな古株ではなく、2つの小さな花に着目。
2つの花は互いの存在に気付かないかもしれないけれど、そばを舞う蝶々はその存在を知っている、というシーン。この蝶々こそ、川端康成の視点なのかなと思う」と中江さん。

ぱっとは気付かないところにも目をやる川端康成の一面が、小説にも表れているようです。

樋口監督-おすすめしたい川端作品

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第二部のトークショーでは、映画「葬式の名人」撮影時の振り返りも交えながらの、楽しい時間でした。

中江有里さんは、映画「葬式の名人」で教師役として出演。
「教師役は文芸の香りのする人をお願いしたかった」と樋口尚文監督が依頼したのだそうです。

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撮影では、スケジュールがタイトでご苦労もあったようですが、茨木市内のさまざまな場所で温かく迎えられたことが、印象に残っていると樋口監督。

「撮影が終わってからも、市内でロケ地巡りツアーを企画したり、撮影スポットに案内板が設置されている。こんなうれしいことはない」といいます。

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「おすすめしたい川端作品の映像」を聞かれた樋口監督は「伊豆の踊子」「みづうみ」「金糸雀(カナリア)」などを挙げられました。

「同じ作品でも、視点によって印象が変わる」のだそう。

「例えば『伊豆の踊子』では、一番の特徴である耽美さを排除した映像作品もある。差別のありようを表現していて、同じ作品とは思えない」
それは弁士の語りによる無音の映像だそうで、観てみたくなりました。

映像化したい川端作品は

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(写真は2018年8月)

「川端康成の目は、真摯で誠実。
無言でじーっと見つめるので、怖くて泣いた人もいるというエピソードもあります」と樋口監督。川端作品の映像でも、その目に潜んだものが如実に表れていることがあるのだそう。

樋口監督が次に川端作品を映像化するなら、という質問には、短編小説の「片腕」を挙げていらっしゃいました。「わからなさを映像化したい」のが理由だそうです。

中江さんが映像で観たい川端作品

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中江さんは、映像で観てみたい川端作品を聞かれて、2つの作品を挙げられました。
一つは、ご自身もドラマでヒロインを演じた「古都」。

「古都は、俳優にとって節になるかもしれない作品。いろんな『古都』を観たい」とのこと。

もう一つが、「寒風(かんぷう)」。
第一部で紹介していた北條民雄についても知ることができる作品です。

「北條民雄が亡くなってから、川端康成は(ハンセン病の)施設を訪ねてるんですね。2人の往復書簡も残っているので、それらも含めて映像になったらと思う」

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「川端文学と出会い直す時」をテーマにした講演&トークショーは、お2人の話にどんどん引き込まれていきました。

「その本、読んでみたい、映像、観てみたい!」と思えたことや、川端康成という人の少し違う部分を知れたことが「出会い直し」だったのかもしれません。

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会場には、茨木市立川端康成文学館が発行する「川端康成と茨木」も置いてありました。

「葬式の名人」「師の棺を肩に」など、映画「葬式の名人」にも出てきたお話が入っていて、読みやすい本です。装丁もステキにリニューアルしているので、おすすめです!
川端康成文学館にも置いてあると思いますよ~。

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(写真は2020年10月)

「『片腕』が好きというコアなファンもいるし『掌の小説』のような身近なものもある。川端文学にはいろんな入り口がある」

これは最後に中江さんがおっしゃっていた言葉です。
時間を作って、本の世界を楽しみたいなぁと思った講演&トークショーでした。

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(写真は2018年6月)

6月26日の感想は以上です♪

その後に見た記事-「川端康成が号泣」?

6月26日に講演会へ行き、27日(月)は「どう書こうかなあ」とぼんやりと。

そんなときSNSに、ある記事の紹介が流れてきました。
ハンセン病に向き合う人びとのインタビュー記事。作家・伊波敏男さんが、川端康成との出会いを語っている部分が載っていました。

少年時代の伊波さんと話をした川端康成が号泣した、というお話です。

■参照
【leprosy ハンセン病の「いま」を知る】

中江さんが「北條民雄が亡くなってから、川端康成は(ハンセン病の)施設を訪ねてるんです」と話していたのは、この時のことだ!と驚きました。

「川端康成がいなければ、北條民雄の本は世に出なかった」という、聞いたばかりの中江さんのお話と、川端康成が号泣したというインタビュー記事が重なって、驚きました。

私にとっての「川端文学と出会い直す時」だったのかなぁと思ったり。

このことがあって、私は北條民雄の「いのちの初夜」を購入してみました。中江さんが紹介していた川端康成の「寒風」も読んでみたいと思っています。
興味のある方は、ぜひ。

Memo/川端康成文学館では

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川端康成は、1899年6月14に大阪市内で誕生。
1968年12月に、日本人初のノーベル文学賞受賞。
1972年4月16日に、72歳10ヶ月の生涯を終えます。

3歳から茨木市の祖父母のもとで育てられ、1912年に茨木中学校(現・茨木高校)に入学。
祖父母と相次いで死別し、15歳で孤児となります。

7月23日~8月28日展示

2022年7月23日~8月28日(火曜と8月12日は休み)は『川端康成文学館テーマ展示「川端康成の小中学校時代と茨木」』を開催されます。
【茨木市HP 川端康成文学館案内ページ】

年間通して、いろんな切り口で展示が変わっていくので、お散歩しながら行ってみると楽しいです。
ぜひ!

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(写真は2021年10月)

■20220年4月16日公開記事もよかったら。
【茨木市名誉市民・川端康成の没後50年特別企画展がスタート】

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