プロフェッショナルの仕事を見た!茨木の街工場と大学の産学連携

以前、「世界にひとつのゴム体験ワクワクプロジェクト」で紹介した「高石工業」さん。
プロジェクトを紹介させていただいたのは、高石工業社長の高石秀之さんと出会ったことがきっかけでした。
 【世界でひとつの・・・ワクワク体験、してきました!-高石工業さん-】の記事参照

今回は、そのときに聞かせていただいた高石さんのお話と、高石工業の工場の様子を少しご紹介したいと思います。

高石工業 大阪工場を見学しました

高石工業株式会社は、創業から約70年。
阪急茨木市駅から梅田方面へ線路沿いに少し歩いたところ、茨木高校の西側にあります。このあたりは住宅街ですが、ずっと以前は町工場がたくさんあったのだそうです。

高石工業の工場内

上の写真は「世界でひとつのゴム作りワクワク体験」をさせていただいた場所ですが、ここにある成形機も創業のころからの機械だそうです。今もこうして利用されているということは、しっかりメンテナンスがされているのだろうなあと想像できますよね。

さらに驚いたのが、工場内がとてもきれいだということ!
機械をたくさん見せていただきましたが、通路もゆったりしているし、作業なさっているスペースもとてもきれいに整えられていました。
上の写真で作業をなさっている方の右下に、作業で使う道具を置くスペースがあるのがわかりますか?

ここも、なーんと

高石工業用具置き場

何をどこに置くかが決められていて、しかも直しやすいように、シートに置くものに合わせてカッティングがしてあるという・・・!
誰が作業をするときにも、「あれ、どこや?」とキョロキョロ探さず、さっと作業に取り掛かれるのですね~。
美しいっ!

高石工業の工場天井

ふと見上げた天井は、昔からの梁はそのまま残っていて本当に美しいのです。
壁や床などのリフォームは、従業員のみなさんで手を動かしたのだとか!
自分たちの手でつくったスペースは、やっぱりきれいに使おうと思いますよね~。
本当に心地よく、明るいというのが印象的です。

さぁ。
いよいよゴムがどんな工程を経て作られていくのかを、見せていただきます。
ものづくりのことに、そんなに詳しくない私が、読者の皆さまへどれだけお伝えできるか不安ではありますが、いざ出陣でありますっ!

小さなゴム製品、どんなふうにできていく?

では、どんなふうにいろんな形のゴム製品ができていくんでしょう。

工場で見せていただいた様子を紹介していきますね。(ちゃんとお伝えできるかなぁ、ドキドキ)
え~っと、例えば製品の量産をするという場合には、

高石工業の細長い金型

こんなふうに一度にたくさん作ることができる金型を用います。
ゴム作り体験のときと同じように、そのサイズに合わせてカットしたゴムを置いていきます。

高石工業の細長いゴム

ゴム作り体験では、自分でゴムをカットしていましたが、量産するためには一枚の大きなゴムを機械でシャンシャンシャン・・・とカットしていきます。

そして、金型にゴムを並べていきます。

高石工業ゴムを並べる成形前

形やできあがる量は違っても、金型でゴムを挟んで成型する、という工程は世界に一つだけのゴム版作りも量産品でも同じなんですね。

成形されたゴム製品たちは、

高石工業・ゴム成型後

上の写真のように、一枚のシートのようになってできてきます。
この一枚のシートにいくつもある、ひとつひとつのゴム製品が左手に乗せられているもの。
では、このシートからひとつずつの製品をどうやって取りだすのか・・・。

そこも、スゴイですよ~。

高石工業の最後の工程

じゃ~ん!・・・と言っても、写真ではわかりづらいかな。
この機械のなかに、さっきのシートになっているゴム製品たちを入れて、冷却します。
すると、製品部分を残して薄いシート部分だけが、シャラャラシャラ~っと落ちるというわけです。

「昔、コマーシャルで、冷凍したバナナで釘を打つっていうシーンがあったんですけど、あれと一緒です」と高石さん。
あぁ、わかるわかる!わかります! (平成生まれには、わからんか・・・)

ですので、この機械の回りは「ドライアイスをモクモクさせたステージ」みたいなことになっています。

こうして、小さな小さな・・・、
そして私たちの普段の生活ではなかなか目にすることがないのに、重要な役割をしている製品たちは、いよいよ出荷されていくわけです。

高石工業の検査工程

もちろん、ダーッと一気に大量のゴム製品が作られていく中でも、ちゃーんと人間の目によってしっかりチェックもされています。
小さな製品の検査では、きっと集中力も必要なんだろうなぁと思います。
検査をしているという部屋の中は、静かでピシッとした空気を感じられました。

「提案・開発型ものづくり」で大学との共同研究も

工場の見学のとき、最初に案内してくださったのが、金型を作っているところでした。

高石工業金型を作成

熟練の職人さんと一緒に、女性も金型を作っています。

 【世界でひとつの・・・ワクワク体験、してきました!-高石工業さん-】の記事でも紹介した、カットしたゴムを置く金属の四角い型。
その「金属の四角い型」が金型です。

製品を作るための金型も自社で作っているので、
「こんなことをしてみたい」
「試験用にひとつだけ作ってほしい」というお客様からの依頼にも柔軟に対応できるんですね。

ゴムの材料の配合から製品完成までのすべてを、高石工業で行ってきたという長年の経験があるので
「お客様からの『こういうことはできますか』という相談に、今までの経験も含めて提案していくことができます」と言います。

高石さんが先代社長から高石工業を継承したのは、2006年のこと。
「先代のころからすでに、新しいこと、新しいものへチャレンジしていく必要は感じていて、チャレンジの姿勢を大切にしたい思いがありました」

今では大学との共同研究もなさっているそうで、詳しくお話を聞いてみました。

産学連携が社内を変えた

水素ステーションを入口から見る
(イメージ写真-以前紹介した茨木市内の水素ステーション)

-大学との共同研究というのは、どういう内容だったんでしょうか。

高石さん(以下略)「水素ステーションで使うゴム製品に関する研究開発です。
実は、ゴム屋の常識では今までに経験したことのない相談だったので、最初は驚きましたよ」

-どんな経緯で高石工業へお話がきたんでしょう?

「九州大学から一本の電話がかかってきたんです。2007年かなぁ。基礎研究のために、ゴムの試作をしてほしいという内容です。ちょうど高石工業でも、新しいことにも前向きに取り組んでいこうと社内で声をかけていた時期だったんです」

-偶然のお電話だったんですか?

「そうです。うちで電話をかけたのは十何番目だとおっしゃっていたんじゃないかなぁ。試作をしてくれるところを探して、片っぱしから電話して、断られ続けていたそうです」

-新しいことにもトライしようという時期で、タイミングも良かったんですね。

「もちろん、私たちも初めてのことで戸惑いもありました。
でも、やったことのないことだからこそ、『どうしたらできるか』を考えようと、みんなで意見を出し合うことができました」

-大学との共同研究というのは、振り返ってみていかがでしたか?

「依頼を受けて、本当に良かったです。それを機に、社内がぐっと変わったように思います」

-どう変わったと思われるんでしょう。

「若い人たちに『こういうことをやっていいんだ』という姿を知ってもらえた。それが良かったと思います。長く経験を積んでいる人たちには『こんなことをやるのか』という戸惑いもあったと思うのですが、外からの働きかけが、常識を破る機会になったと思います。やって良かったと思います」

大学と製造業が繋がるということ

現在は、水素ステーション向けのゴム製品を開発し、この分野では世界的にもユニークな存在になりつつある高石工業。大学からの共同研究の依頼を受けたことが、大きいと振り返ります。

-大学と製造業との連携で大切なことってなんでしょう?

「オープンに考えるということでしょうか。
こういうことしかできないもんです、と言ってしまわないことが大切なんじゃないかと思います。
自分のフィールドからちょっとだけ違うフィールドに足を踏み入れてみるということですね。そうすることで、世界が広がるんだと実感しました」

-大学機関と製造業。なかなか出会わない気もしますが。

「私たちも本当に偶然でした。
でも、『こういうことをしたいけどどうしたらいいだろう』と探している人・機関はあると思います。その時に「やってみよう」と思えるかどうかの違いじゃないでしょうか」

-なるほど。

「大学の先生がどんなことを考えているのか、何を実現したいのか、すぐにはわからなかったり、お互いに戸惑うこともありますが、話をしていくと理解も深まるし、互いの考えも広がっていく。私たちだけでは出てこない考えが出てきたりする。
違うフィールドにいる人と話をしていくというのは、本当に大きいことです」

「おもしろがる」って大事です

高石工業建物

-ところで、高石さんご自身は、将来は高石工業を継承すると小さい頃から思っていたのですか?

「そうですね、思っていました。
一時期、『んー』と思ったりしたこともあったし、大学を出てからは一度金融機関へ就職もしています。でも、継ぐことが責任だと思っていました」

-高石工業で働く前に、違う会社を経験したことは?

「これは、本当に貴重な経験でした。
外の企業へ就職してよかったと思っています。毎日怒られてましたけどね(笑)。
やがては会社を経営する立場でしたから、組織の動き方や話がどう進んでいくのかなどを、大きい組織の中で見る事ができたのは貴重な経験でした。熱意のある人もたくさんいて、刺激になりました」

-学生さんにはどんな思いをお持ちですか?

「(長い時間考えて)んー。高石工業はたまたまゴム製品を作る会社ですが、それ以外にも製造業はあります。茨木には少なくなってきましたが。でも、小さくてもおもしろい会社もあります。ものづくりの世界に触れる機会があったら、ぜひその楽しさを覗いてみてほしいと思います」

-なかなか目にする機会の少ないものづくりの様子を覗けるのが、「世界でひとつのゴム作りわくわくプロジェクト体験」かもしれませんね。

「言葉で説明しても、なかなかわからないけれど、体験することでちょっとわかることもあればなぁと思います」

-学生さんにも、いろんな体験をしてほしいですね。

「そうですね。おもしろがるって、大事なことだと思います。
今すぐ何かに繋がるとかでなくても、社会にでてから何かで結びついたり、想像とは違う形で繋がるかもしれない。おもしろがってやってみることです」

-「おもしろがる」って、どんなことでも大切なことかもしれませんね。

茨木の製造業会社を取材して

茨木市・高石工業株式会社の門

高石工業の工場内を見学させていただいて、工場がとてもきれいなことに驚いたのですが、もうひとつ驚いたことがありました。
それは、「社長と社員がとても近い」ということ。

おそらく、他の会社などでもそういうことはあると思うのですが、これだけの規模の会社では、なかなかないんじゃないかと感じました。

一つ一つの工程を案内してくださるとき、そこにいる従業員に次から次へと声をかけていく高石さん。
ちょうど取材当日がお誕生日だという社員がいた工程に寄ったときには
「おめでとう」と肩を組んだりなさっていました。
別のある工程では、私が撮影を終えたときに、入社してまだ間もない従業員の背中をぽんぽんとたたきながら
「慣れた?緊張した?」などと声をかけていました。

製造業のことやものづくり、産学連携など、私はそんなに詳しく知ってはいません。
けれど、こんな雰囲気の会社で働けることは、きっと幸せなんじゃないかなぁと、本当に感じた取材でした。

「高石さんにとって茨木ってどんな街ですか?会社が茨木でどんなふうになったらいいと思っていますか?」と、最後に質問をしました。

「茨木っていいところだと思います。住みやすいです。
ここで会社を大きくしていくというか、むしろ、働くみんなと幸せになりたいと思っています。やりがいを感じてもらえる会社でありたいと思っています」

そして、
「(まだ幼い)子どもが『おとうさん、ありがとう』って言ってくれるんです。
それは妻が支えてくれているんだなぁと思うんですね。不安なく仕事をさせてもらえているので、本当に感謝です」と高石さん。

「産学連携」が新しい技術の研究開発や、新事業を創りだしていってるのだとしたら、それは茨木という小さな街で真剣にものづくりに取り組む会社と、そこで働く方々が支えているんだなぁと改めて、感じました。

高石工業体験・完成のポーズ

高石さん、従業員のみなさま、どうもありがとうございました!

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