育てる人と作る人。伝えたいのは、茨木の価値-千提寺farm.とBONOcafe
茨木産の食材で作るメニューが人気のBONOcafe(以下ボノカフェ)。スイーツメニューは今秋「焦がしスイートポテトパフェ」で茨木の秋を伝えています。
使っているのは、茨木市北部「ほくちの会」の皆さんが丁寧に育てたものをはじめ、茨木北部産のサツマイモ。
10月中旬、ボノカフェ店長・樋口智香さんと一緒に、ほくちの会を起ち上げた千提寺farm.の中井大介さん優紀さんご夫妻を訪ねました。「野菜を作る人と使う人」それぞれの思いを紹介します。
ボノカフェと千提寺farm.の出会い
(写真左:樋口智香さん、右:中井優紀さん)
―― 樋口さんは中井大介さんと幼なじみなのですね?
ボノカフェ・樋口智香さん「そう。優紀さんは大ちゃんと店に来てくれたんよね」
千提寺farm.・中井優紀さん「起業を考えてたころに『同級生でめっちゃ頑張ってカフェをやってる子がおる』って聞いて」
樋口「こんなに深く関わることになるとは(笑)」
中井「三島独活(みしまうど)を作りたいって話したら『応援する、頑張り!』って言ってくれたんよね。お客さんに支持されてる飲食店さんの励ましは、心強かった」
樋口「私自身が好きなことをしてるから『楽しさ重視でいったらいいやん』って、勢いで」
中井「三島独活を作る話は『無理ちゃう?』って言われることが多かったから、嬉しかったのを覚えてるわ」
つながりのきっかけは「ほくちの会」
―― 千提寺farm.では、伝統野菜の三島独活を作っているのですよね。
中井「この地域の資産を活用したビジネスをしようと起業したのが2015年。地元の伝統野菜は光ってたし、最後に一軒だけ残っていた農家さんが、三島独活づくりを辞めると聞いて『これだ』って」
―― 樋口さんと中井さんがより深く関わるようになったきっかけは?
樋口「やっぱり、ほくちの会かなぁ」
中井「ほくちの会は、地域全体の価値を広められるように作ったコミュニティです。農林水産省の『農村集落活性化支援事業』へ申請して、補助金の採択を受けました」
樋口「私もSNSで声をかけてもらって、参加しました。力になりたいって思って」
―― 今はどんな活動を?
中井「主にイベント。茨木の山を体感して、知ってもらえるような内容です。10月14日の安威川ダムフェスティバルにも出店しました。街からのお客さんと会えたのは、嬉しかったですね」
樋口「ボノカフェも、今年はほくちの会として出店しました。茨木産のものを求めてるお客さんは多いって、改めて思ったわ。おかきでも『これは茨木のもち米を使って』なんて説明すると、興味を持ってくれる。伝えることって必要やねんなあって思ったよね」
中井「農家としても気付きがあったなあ」
―― 例えば?
中井「サイダーを三種類販売したんです。ホーリーバジルとすだちと和ハッカ。一番売れたのってどれと思います?」
――すだちかなぁ?
中井「そう。やっぱり、わかりやすいものが売れるねんなぁって。私たち農家が『これって普通やん』って思うものも、一般の方にはまだ浸透してないことが多いのかも。うちの独活もそうだけど(笑)」
樋口「伝えるって大事やんね」
街は、山の暮らしが守ってる
―― 樋口さんは、この北部地域が地元。中井さんは?
中井「新婚当時は街に住んでました。夫の両親が亡くなって、祖父母だけになるので『古民家に住むのも楽しそう』って気軽に考えて、戻ってきました。2013年ですね」
―― イメージ通りの暮らし?
中井「私、山に慣れてると思ってたんです。もともとサニータウンに住んでたから。でも、世界はまったく違った!」
樋口「そりゃそうや!サニータウンは街やで、あれは街!」
中井「うん、あそこは街やな。ここはみんな農業するし、里山も管理する。自然と共存する暮らしぶりに、カルチャーショックも大きかった」
― カルチャーショック…ですか。
中井「自分が、自分たちで食べるものも満足に作れないことがショックで。暮らしと自然の繋がりの深さを知るうちに、自然と共存する暮らしを極めたいって思いましたね」
―― 「暮らしと自然の繋がり」は、街の暮らしにも言えそう?
中井「もちろん!農業や里山が崩れてしまったら、街に影響が出ます。まずは水。あと災害の面でも」
中井大介「田舎暮らしってスローライフやろって言われるけど、そんなことないしな」
樋口「そうやな、山で暮らしてる人が守ってくれてるんやんな」
中井「移り住んできたからこそわかったし、伝えたいって思った。農業も里山の管理も、自分たちのためじゃなくて、将来のためにやらなきゃって思ってます」
山でも街でも大切な「つとめ」がある
樋口「えらいと思うよ。よう嫁にきたなぁ。私はもともと住んでたからなんともないけど、大変やったでしょ?」
中井「人がノーアポで来る、来まくる」
樋口「そう、それ。急に現われる。ほんで、普通にお茶を出す。大ちゃん、感謝せなアカンよ」
中井大介「いや、普通やん」
樋口「普通ちゃうって!」
中井大介「確かに、最初は抵抗あったんか、鍵を閉めてましたもんね。閉めへんのが普通やで~って言ってんけど。でも、距離のバランスの取り方が上手やった」
中井「びっくりしたんがさぁ、『近所の人が亡くなりました、はい仕事二日休んでください、みんな手伝います~』って」
樋口「あー、それほんまにあるもん」
中井「会社に『近所の人亡くなったんで、二日休みます』って言ったら『そんなアホな話あるかー!』って信じてもらわれへんかった。でも、ほんまやからね」
―― 昔はそういう関わりも普通のことだったのかも。
中井「日本には、社会学的に『自分の暮らし』『お勤め』、これは生業というか仕事ね。もうひとつ『つとめ』っていうのがあるんですって。地域の中でみんなが担うもの」
―― つとめ、ですか。
中井「手間だし労力でしかないけど、その人に生きがいややりがいを与えて、孤独から救ってると言われてるんです」
樋口「そっか!みんなが大変やなぁって思いがちなところやんね。例えば山では、みんなでこの辺を草刈りしようって仕事があって、そういうことを通して、グループの中で仲良くなれる」
中井「コミュニティの中につとめがあることで、頼りにされたり、誰かのために頑張ろうって思える。自分がいかに人に助けられて大切にされてか、つとめの中で感じられるんよね」
樋口「ほくちの会のみんなで安威川ダムフェスティバルに出たやん?あれもそうやんね」
中井「豚汁、なかなか売れへんかったけどね」
―― 150食作ったんでしたっけ?
樋口「確かに、売上はびっくりするぐらい少なかったけど、楽しかったよね。その日だけの仕事なのに、みんながちゃんとポジションを見つけてチームワークができるんよね。暮らしと仕事とつとめって三つの話を聞いて、納得した。売上はもういいわって」
中井大介「それは悪かったな」
樋口「ちゃうねん、私、優紀さんの話を聞いて納得してんよ。お金じゃないよねって」
中井「やった人じゃないとわからへんよね。そこがムズカシイ」
樋口「そやなぁ。あんな、豚汁150杯とか(笑)」
中井「二度とやらへんわーとか思うねん、でも楽しかった」
―― ほくちの会をとおして、どんなことを伝えたい?
中井「山には哲学とか、生きる上でのポリシーみたいなものが詰まってる。自然に近いところの生き方や暮らし方は人の心を豊かにするって、やっぱり体感してもらいたいなぁ」
樋口「私は小さいころから住んでるので、単純に好きな場所ですよね。たくさんの人に『こんなところがあるんだよ』ってまずは知ってほしいな」
農家と店が顔を合わせることの意味
―― ボノカフェで千提寺farm.の野菜を使うようになったのは?
樋口 「野菜をしっかり使わせてもらうようになったのは、今年の春。三島独活を使い始めてからよね?」
中井 「独活って時間がかかるんです。千提寺farm.が作った独活ですって出荷できたのは2017年3月。最初は独活のことで精いっぱいで、今年の3月に2回目の収穫ができてから、他の野菜も作れるようになりました」
―― 三島独活を使おうって思ったのは?
樋口「ここでしか食べられない特産品でしょ。『茨木のものにこだわってます』って言ってる私が、使わないわけにいかんやろって(笑)」
中井「使命感(笑)?ありがたい」
樋口「三島独活って、宝石みたいな野菜やもん。料亭に卸したりする貴重なものだから、三島独活のことを知ってるお客さんは『1,000円の定食で食べられるの?!』って、びっくりしはる」
―― 収穫までに時間も手間もかかるんですよね。
中井「わらと干し草の発酵熱だけで育てる伝統的な作り方は、全国でうちだけですね。労力もかかるから。ここにしかない特産品です」
樋口「瑞々しくて、梨みたいなんです。筋張ったイメージと全然違う」
中井「なかなか気軽に使いづらい価格になるんですけど、京都や大阪の料亭やフレンチのお店に使っていただくことが多いです」
樋口「ミシュランに星がついてるような…」
―― わぁ、そうなんですね。
樋口「さっき畑で見たら適当に花が咲いてるように見えるけど、あれが全部宝物なんですよ、超高級食材」
現場を知る人は、ストーリーを伝えられる
―― 樋口さんは、以前インタビューしたときにも「農家さんに会いに行きたい」っておっしゃってました。
樋口「畑に行くと、こんなふうに作られてるんやなぁ、大切に使わないとって思えるんです」
―― レシピを考えるときに風景がヒントになることもあるっておっしゃってました。
樋口「そのときに浮かばないかもしれないけど、考えていくなかで、やっぱり役に立つもの、吸収できるものが畑にはありますよ」
中井「実は、農業を始めてみてわかったことがあるんです」
樋口「うん」
中井「一流になればなるほど、皆さん来られる。畑に」
樋口「え」
中井「一流の料理人になればなるほど、来られるんです、絶対に。そこでイマジネーションを膨らませられるって、皆さんおっしゃるんです」
―― そうなんですね。
中井「だから、人気の飲食店って、生産者と現場でつながってるんだなって思うんです。お客さんも、知らず知らずのうちに感じるものがあるんじゃないのかな。料理を通して、背景を伝えられる店が支持されるんでしょうね」
近くのものを食べること
―― ボノカフェでは「茨木の季節を感じられる」というお客さんの声も多いですね。
樋口「メニューの9割以上で茨木産のものを使ってます。もっと伝えていきたいですね」
中井「自分の住むところに近い場所の野菜を食べると健康にいいって、言われてるんですよ。ヨーロッパでは、科学的な研究も進んでいると聞いたことがあります」
樋口「その土地のものが、自分の体に合うってこと?」
中井「そう。何キロ以内のもの食べなさいとか。ボノカフェに行きたくなるのは、そんなことも理由なのかも」
樋口「お客さんに『あんたんとこのご飯を毎日食べてたら、外出できるように元気になってん』って言われることがある」
中井「昔から人間は、自分の住む地域で食べ物を収集してたんですもんね」
樋口「植物で言うとわかりやすい?観葉植物とか、全然ちがうところに植え替えると、環境や水があわなくて育たなくなるとか。なんかわかるような気がする」
大切にしたい「優しい選択」の積み重ね
―― ところで、樋口さんと中井さんはお互いをどんなふうに見てらっしゃるんですか?
樋口「大ちゃんは、おっとりタイプ。のほほんと幸せそうに農業してて、応援したくなる。優紀さんはパワフル。ほくちの会でもイベントでも、どんどん動くからこっちも動かないとって、力をもらえる人」
中井「私も智香ちゃんを見て、もっとやらなあかん、私は甘いなって思う。自分のポリシーを貫いてる人は輝いてるしステキ」
―― 活躍の場は街と山。根っこが深く結びついてる感じがします。
中井「夫婦関係もフラットやんね。樋口家も固定概念がなくて、二人にとってのいい方を選択してるよねぇ」
中井大介「俺らは、趣味趣向は似てて、二人の性格は違うねん。樋口家は、性格の特長が似てて趣味趣向は違うねん」
樋口「さすが大ちゃん、賢いまとめ!」
中井大介「だいたいこの人(優紀さん)は無茶をしようとする。アクセル踏むから、ぼくがブレーキを踏む」
中井「それでぶつかる。なんでそんなこと言うん?!って」
樋口「わかるー!安威川ダムフェスティバルも、豚汁のことでどれだけ言い合ってたか!こっちは『やめとけ』って言ってるし、こっちは『やるー!』って言って聞かへんしさー」
中井大介「あれ、ブレーキ踏まんかったらえらいことやったで」
樋口「いいバランスやわ」
―― 話は尽きませんが(笑)、最後に。いばきたの野菜がボノカフェの料理に生まれ変わり、街でお客さんに食べてもらってます。どんなことが伝わってほしい?
(写真は2017年)
中井「ほくちの会って、やさしい選択をしてるひとたち。今が良ければじゃなくて、未来やお金に換えられないところに価値を感じて、ここで暮らしてる。そんな中で育てられた野菜って、使うほうも大変だと思うんですよね」
樋口「洗うこと一つも、そうやんね。でも、それも含めて使いたいと思ってる」
中井「その愛情を感じてほしい!『やさしさでできてる食卓なんだよ』って感じてもらいたいですね」
樋口「ボノカフェの料理は野菜が中心で、特に目玉があるわけでもない。でも、みんなの気持ちのこもったものなんだよって、伝わってほしいですね」
―― その気持ちを受け取って、何度も来る方が多いのかも。
樋口「農家さんがこだわって作ったものだから、丁寧に使いたい。根っこかどうかもわからないようなサツマイモでも、これをどうしたらいいんやろって考える。それって、節約じゃないんです。農家さんの愛情をどうしたら伝えられるやろうみたいな」
中井「魂がこもってるんよ、きっと。誰かのためにってことを丁寧に選択した積み重ねで、ボノカフェの定食ができてるんやろうなあ」
中井大介「選択するっていうところは、大切やと思うし伝えたい。みんながこうだからじゃなくて、主体性を持って、自分がどうしたいかを考えるって大事なことやと思いますよね」
樋口「茨木の山でいいものを作ってる人たちがいる。それを、私は料理を通して伝えたいですね」
中井「ローカルで盛り上がる地域のコアには、飲食店があるんだよね。ボノカフェはキーになるんだと思うし、期待してる!」
樋口「茨木の山のことを、もっと知ってもらいたいね!」
中井「ねー!」
―― 皆さん、今日はありがとうございました。
【BONOcafe】
所在地: 茨木市水尾2丁目14−35
電話: 072-632-5124
営業時間 11:00~17:00(LO 16:00)
休み: 日・祝
駐車場 あります。
【BONOcafe公式サイト】
〒567-0891 大阪府茨木市水尾2丁目14−35
2017年2月【茨木の山の恵みを街へ伝えるボノカフェ・樋口智香さんの話】の記事
2018年5月【季節の果物をギュッと瓶詰め!茨木産野菜ランチの店BONOcafe(ボノカフェ)】の記事もぜひ。
【千提寺farm.】
所在地: 茨木市千提寺380
電話: 090-6900-6968
■千提寺farm.公式サイト https://www.facebook.com/sendaijifarm.380/
■【ほくちの会】公式ページ